井上 雅未花は、金箔と卵テンペラによる古典技法を用いて制作しています。
薄暗い教会の中でも荘厳に輝く金は、祭壇画によく用いられていました。
国際ゴシック様式によく金を使ったものが残されてます。
箔の扱いはとても神経を使うものです。箔は大変薄いので空調や息を止めて丁寧に押していき、仕上げにはメノウ棒で磨いて輝きを出します。
卵テンペラはピグメント(絵具そのもの)と卵を混ぜるものであり、卵がメディウム(媒体ここでは接着剤の意味です。)となっています。日本の天婦羅はここから来ているのではないかとも言われてますが、もともとはラテン語のTemperare(混ぜ合わせる)が語源のようです。
この技法は油絵具のようにチューブに入っているものではなく、自分で卵と混ぜ合わせて描いていかなくてはならなく手間がかかるので、油絵具やアクリル絵具に比べるとやりたがる方はそれほど多くありません。
テンペラは描いているときは水性なのですが、乾くと堅牢になります。一般的に「ハッチング」という線の集積で描いていきますが、井上雅未花はそのハッチングを重ねるので一見するとハッチングには見えないのが特長です。また作品により少しだけ油絵具を併用する「混合技法」を取り入れて深みを出しています。
また黄金テンペラは支持体としてキャンバスではなく板を用いることが一般的なので、下処理にも手間を要します。日本には印象派の頃に西洋画が入ってきているので、西洋画というとキャンバスに厚塗りの油絵具と思われる方がまだ多く、板に描いているというと「変わっているわね」と言われることが多いのですが、この技法のほうが実は古いのです。
初めて目にするものの「すりこみ」はこんなにも長く続くものなのですね。
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