2022年11月16日から22日まで、伊勢丹浦和店で2人展を控える日本画家・設樂雅美さんに福福堂の編集部がインタビューをしました。山形で育った設樂さんの傍にはいつも木があった――それでは日本画家・設樂 雅美さんのインタービューをお楽しみください!
絵との出会いは『祖父から貰ったクレヨンとスケッチブック』
――今日はインタビューよろしくお願いします。
さっそくですが設樂先生と『絵』との出会いについてお聞かせください。
はい、今日はよろしくお願いします。
私と絵との出会いは幼少のころ、誕生日に祖父がクレヨンとスケッチブックをプレゼントしてくれたのがきっかけになります。
――おじいちゃんから貰ったプレゼントがきっかけだったのですね。その時はどんな絵を描いていましたか?
その時は、ワンピースを着た女の子を描いていました。片手にバックを持って、ヒールのある靴を履いている女の子の絵です。すっごく下手でしたが…(笑)
あとは祖父が外でスケッチをするのが好きだったので一緒に出掛けてスケッチをしました。そこで絵を描く楽しさを覚えました。
実家が山の中といいますか森の中で、熊や鹿が出てくるようなところだったんですよ。家を出たらすぐ目の前が山で、いい風景でした。当時からそういう風景を描いていました。
――今の画風と既に繋がってたのですね。
はい。その頃は祖父と草や石の上に座って描きました。風景に飽きたら動物を描いたりして。ウサギさんとか、猫とか。
――可愛いお孫さんだったのでしょうね。
祖父との絵の思い出ばかり語ってしまいましたが、父親も絵が好きでした。
――お父様も。
はい。父との思い出で忘れられないことがあります。
小さい頃って鉛筆でチラシの裏とかに適当にいたずら書きをするじゃないですか。そういうのをやっていたら、父が私がチラシの裏に描いた絵を年賀状に印刷してくれたんですね。
私が適当に描いたものが気に入ってくれたみたいです。それがうれしくて、もうますます絵が好きになりました。
それが一番小さいときの思い出です。
楽しそうな父を見て始めた日本画
――画家を志したきっかけを教えてください。
はい。私の父は日本画を描いていたんですよ。ただ両親を養ったりしないといけなかったので、画家にはなれなかったみたいで。
――お父様は元々は画家志望だったんですね。
多分なりたかったんじゃないかなあと思うんですけど、普通の会社員をしながら時々趣味で描いていて。その描いている様子がすごく生き生きとしていて、楽しそうでした。それで日本画が楽しそうだなと思って、私は小学生のころからぼんやり『将来絵を描いていきたいなあ』と思いました。
――それが日本画との出会いだったのですね。
そうですね。父が絵皿で絵具を溶いていたりとかしている様子が本当に楽しそうで。
ですから私は油絵ではなく日本画を自然と選びました。迷ったりしたこともなかったです。
――そうなのですね。日本画が本当に身近な画材だったんですね。お父様はどんな絵を描かれていたのですか?
風景とか人を描いていました。少し暗い絵が多かったです。私の絵は父の影響からきているかは分からないのですが、私は父と同じような色を使って描いています。なにか心に訴えかけたいというのがあるのか凄く悩まし気な『人物画』とかを描いていたのを覚えてます。家に飾るような明るい絵ではなかったですね…でも青の色使いがとても好きで、風景画は玄関に飾ってあっていつも見ていました。
もう生まれた時からずっと飾ってあったので家と一体化していて(笑)
――そうなのですね(笑)
書斎みたいなところで父は描いていたりしていましたね。
だから今思えば、私の子供時代は絵に囲まれた環境だったと思います。
――それは素敵ですね。
いま周りの画家から話を聞くと『両親からは美大に行くのを反対されていた』という方が多い気がします。私はその反対されるという苦労がなかったから、 恵まれていたのだなあと思います。
SNSとかにも疎い父なのですが、Facebookを頑張って登録してくれました。いいねを押してくれたりしています。
――とてもお優しいですね。
そうなんです。全然親孝行ができていないのですが。
――ご両親が設樂先生に夢を託した気持ちが伝わってきます。ご両親は誇らしく思っていると思いますよ。
そうだと嬉しいです。
周りに馴染めず絵にのめり込んだ学生時代
――学生時代はどのような絵の活動をされていましたか?
美大に入って絵の勉強がしたいと思ったので、高校では美術部に入りました。
その当時、学校がすごく大嫌いで周りと馴染めなくてその分美術の時間と美術予備校での時間に没頭していました。
美術予備校は地元になかったのですが『予備校に通わないと合格はできない』という話を聞いていたので、2時間ぐらいかけて隣の県の予備校まで毎週通っていました。仙台まで。
その時間が小旅行ではないんですが、唯一現実逃避ができる時間でした。だから高校生活が楽しかったら逆にここまで絵にのめり込んだり好きになっていなかったかもなあ、と思います。
――なるほど、それがかえってよかったのですね。
はい、よかったです。結局行きたかった東京の美大は全部落ちてしまいましたが。ムサビ(武蔵野美術大学)、タマビ(多摩美術大学)、女子美(女子美術大学)。
浪人はできないと思っていたので、地元の山形の美大に通うことにしました。
本格的に日本画を始めることになったのは美大に入ってからになります。そこで大学院を入れて6年間勉強しました。
初出品で初入選!
――大学生の頃は展覧会などはされていましたか?
山形で大学生だった頃は展示会はしていませんでした。でも公募展には出品していました。
画家になりたいという目標があったので、そのためにも略歴に載せられる実績が必要だと思い公募展に出しました。
出品のために150号サイズ(約2.3m×1.8m)という大作を初めて描いた時のことを覚えています。『一枚の絵をこういう風に完成させる』とか、『締め切りに間に合わせる』とか今では当たり前ですが、その時が初めての経験で『画家として生きていくにはこういうことが必要なんだな』ということを学びました。
――公募展での成果はいかがでしたか?
幸運なことに初出品で初入選をして、東京都美術館に飾ってもらえました。田舎から出てきたので東京の美術館に自分の絵が飾ってあるのをみてすごく感動しました。『創画会』という公募展なのですが、大学4年で1回、社会人になって1回出しました。
何か挑戦をして成し遂げられたことがそれまで一度もなかったのですが、初めてそういう経験ができました。『自分に頑張れるものが絵しかないんだな』と強く思いました。
画家になりたいという『漠然とした夢』は『具体的な目標』に変わりました。
――ちなみにその頃に描いた大作はいま何処にあるのでしょう。
いまでも実家にあります。私の大きな絵で廊下がひとつ塞がっていて通れません(笑)
――上京されたのは大学院を出てからすぐでしょうか。
はい、そうです。
自分の作品を知ってもらうためには個展を開かなければいけないと思っていました。
東京なら様々な画家の展覧会も見て学ぶことができるので、個展や活動をするなら東京へ出た方がいいと思ったからです。
インタビュアー 福福堂編集部
プロフィール
設樂雅美
MASAMI SHITARA
1984年
山形県天童市生まれ
2009年
東北芸術工科大学大学院 芸術文化専攻日本画研究領域 修了
◆展示歴◆
2012年
グループ展「北斗七星」展(アートスペース羅針盤/東京)
3人展「あしたへの手紙」展(gallery re:tail/東京)
5月(遠野蔵の道ギャラリー/岩手)、6月(ビルド・スペース/宮城)巡回。
グループ展 第1回「飛の会」(佐藤美術館/東京)
2015年
グループ展 第2回「飛の会」(井上画廊、KAMIYA‐ART/東京)
2019年
「いまここを生きるアーティスト2019年」(ギャラリー枝香庵/東京)`13、`15、`17年参加 グループ展「アート関ヶ原」(福屋八丁堀本店/広島)
2020年
グループ展「ネオナイーブ派」展(阪神梅田本店/大阪)
「EGC」展 (阪神梅田本店/大阪)
2021年
「EGCセレクト」展 (阪神梅田本店/大阪)
「EGC」展 (福屋八丁堀本店/広島)
「大EGC」展(ヒルトピア・アートスクエア/東京)
二人展 「設樂雅美・松尾彩加 若手二人展~ひかり、木漏れ日と雫~」(福屋八丁堀本店/広島)
2022年
「EGC」展(福屋八丁堀本店/広島)
「大EGC展」(阪神梅田本店/大阪)
◆個展◆
2010年
個展「設樂雅美展」 (銀座ゆう画廊/東京)
2011年
個展「設樂雅美展」 (銀座OギャラリーUP・S/東京)
2013年
個展「設樂雅美展」 (柴田悦子画廊/東京)
2022年
個展 「設樂雅美日本画展~木々のさざめき~」 (山口井筒屋店/山口)
個展 「設樂雅美日本画展~風のさざめき~」 (小倉井筒屋店/福岡)
◆入選歴◆
2006年
第33回創画展 入選 (東京都美術館/東京)`07、`11年入選
2008年
第34回春季創画展 入選 (日本橋高島屋/東京)`10年入選
第26回上野の森美術大賞展 入選 (上野の森美術館)
作品解説
『そよ風の音』
設樂雅美
F15号(530mm×652mm)
日本画
495,000
作者は故郷山形にいた頃から『欅の木』を描きつづけている。
「コロナになり、地元になかなか帰ることができなくなりました。そんな時姪っ子と遊びに行った埼玉の公園で大きな欅の木を見つけました。穏やかな欅の木に新鮮さを感じました。地元山形の大自然の手つかずの神秘的で荒々しい木の雰囲気とは違いますが、人の営みを感じられる穏やかな欅の木でした」
空に悠々と枝を伸ばす欅の木。さらさらと音のする風。気持ちが浄化されていくような作品だ。
生家の窓から山の木に話しかけて育ったという作者にとって、木はおじいちゃんのような存在だという。
そんな作者が描く木の絵は、私たちに多くを与えてくれる。
(作品解説 福福堂)
設樂雅美さんの展覧会情報
若菜由三香・設樂雅美二人展
会期 2022年11月16日(水)~22日(火)
※最終日は午後5時閉場
会場 伊勢丹浦和展 7F プチギャラリー
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