昔の王侯貴族の肖像画を美術館や教科書でご覧になったことがある方は多いのではないでしょうか。
立派なヒゲを蓄えて少し胸を反らせた威厳ある壮年の男性や、慈愛と品溢れる貴婦人等・・・。写真が無かった時代、肖像画はイメージ戦略のメディアであり、お見合い写真の代わりでありといった重要なツールでした。依頼主の気に添うことが大切でしたので、返品になったり支払い拒否されたり、描き直しになったりしないように、画家達は気を配りながら描いていました。今で言うところの「盛る」感覚でしょうか。
マリー・アントワネットやその母マリア・テレジアで有名なハプスブルグ家出身の王族たちの肖像画をご覧になったことはありますか。青い血が流れているとまで言われた高貴な一族、ハプスブルグ家出身の者たちは、その一族特有の相貌の特長を備えていました。特にスペイン・ハプスブルグ家の最後の王であるカルロス2世は、近親婚による一族の特長が一段と色濃く顕れ、知能と相貌に著しい障害があったと言われています。しかし、そのカルロス2世もその肖像画を見ると、画家の涙ぐましい努力により、別人のような容姿に描かれています。
その後写真技術が生まれてから、だんだん肖像画というものの位置づけは変わってきました。現代の肖像画は、よりモデルの内面性に迫るもの、そしてモデルと、画家もしくは依頼主との繋がりや想いを表すものにもなってきたように感じます。
例えば亡くなった肉親や友人を描いたもの。ある画家は言います。描き続けている時間は、彼らを想い対話している時間であり、そうしている間は彼らは生きているのだと。
そして画家自身の想いの発露としての肖像画でなくても、依頼主が大切な人の肖像画を頼むこともあります。ご両親が大切な我が子の肖像画を画家に頼んで描いてもらうことも。それは何よりのプレゼントです。その子が大きくなった時、そこに確かなご両親の愛情を感じることができると思うのです。その愛された記憶は、その後の子供の人生にとってどれほどの勇気を与えてくれることか。
時代を超えて肖像画の役割は少しずつ変わってきていますが、この時代において肖像画はより一層「想いを込められるもの」「意味のあるもの」になっていると言えるでしょう。
※ちなみに、画像の作品の作者は若菜由三香さんです。ものすごく素晴らしい肖像画を描かれます。記念にお願いされたい方はご相談ください。小さいと描けませんが、4号サイズ(約33cm✕約24cm)から額付きでお渡しできるそうです!→若菜さんに聞いてみる
(ライター晶)
コメントをお書きください